「相続対策に生命保険」は節税になるからではない

相続対策には生命保険金が有効だという話を耳にしたことがあるかもしれません。
しかし、生命保険金が本当に価値を発揮するのは、単なる節税手段としてではなく、相続人にとっての「円満な相続」と「確実な納税」を実現するための、強力なツールとして活用された時です。
どういうことなのか、見ていきましょう。

死亡保険をかけるそもそもの目的

死亡保険は、亡くなった方(被相続人)の収入が途絶えた後も、遺された家族が経済的に困窮しないための生活防衛資金としてかけるものです。
つまり、相続が起こったことにより、指定した相続人にお金がわたる仕組みとなっています。
この仕組みがあるからこそ、保険金は「相続が起こった際、指定した相続人へ確実に現金を渡せる」独自の手段となるのです。
支払う保険料は、日々の生活費とは切り離し、「将来の備え」として、手元の余裕資金(貯蓄の一部など)から捻出することが鉄則です。
この保険料の支払いは、被相続人の財産をその都度減少させることにもつながります。
相続税の課税対象となる財産を事前に減らす効果を持つ一方で、その後の活用法こそが重要となります。

相続における死亡保険金の役割その1~納税資金

相続税の納付期限は相続発生から10か月以内であり、原則現金で納付します。
しかし、相続財産は現金だけとは限りません。
このため相続財産の多くが不動産や非上場株式など、換金しにくい財産だった場合、納付期限までに売却できず、相続税を期限までに現金で納付できないリスクがあります。
これに対し死亡保険金は、被相続人の死亡によりすぐに現金として受け取ることができます。
ですから他の財産をあわてて売却することなく確実に納税資金を確保できる、最も確実な手段となります。

相続における死亡保険金の役割その2~代償金

代償金とは、分割しにくい財産(自宅の土地家屋や事業に必要な自社株など)を特定の相続人が受け取る際、他の相続人に対して公平性を保つために支払う調整金のことです。
例えば、兄が被相続人の事業を継ぐため自社株の全部を相続する代わりに、弟にはその半分の額の代償金を払う、といった場面で用いられます。
死亡保険は特定の受取人を指定できるため、代償金を負担する相続人(この場合は兄)をあらかじめ受取人に指定しておくことで、スムーズで円満な遺産分割を実現できます。

上記2つは、被相続人が保険料を負担するので、相続人の負担が軽減されます。

生命保険は節税になるか

「生命保険は相続税の節税になる」という話は広く知られていますが、その効果については正しく理解しておく必要があります。
生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。
法定相続人が3人であれば、合計1,500万円まで相続財産の計算には入れなくてすむため、この範囲において相続税の節税になるといえるでしょう。
しかし非課税枠を超えた分は課税の対象となります。
前述したように、被相続人の保険料の支払いは余裕資金からおこなわれることを考えると、被相続人はそれ以上の財産を保有していると考えられます。
したがって生命保険金による節税効果は、相続対策全体から考えると限定的になることが多いのです。

生命保険金の真の価値は、非課税枠という節税効果ではなく、「確実に納税資金を確保し、遺産分割のトラブルを防ぐ」という点にあります。
ですから、節税効果だけを追い求め、過度な保険に加入すると、本当に必要な保障額や他のより有効な対策を見誤る可能性があります。
まずは、「納税と争族対策のため」に活用し、その結果として「非課税枠の適用」という副次的なメリットを得る、という順番で考えることが、相続対策の王道です。

生命保険は、相続を原因として、必要な時に、必要な人に、必要な金額を渡せるための独特で有効な手段です。
だからこそ、財産全体や相続後の家族の生活を見据え、誰に、いくら、どの保険で渡すのかを計画的に設計してこそ真価が発揮されます。
相続の状況はご家庭ごとに異なるため、まずは現状の財産と家族構成を整理し、生命保険がどのように役立つか検討することが、最初の一歩です。
悩ましい点があれば、一度ご家庭の事情を踏まえて客観的にアドバイスできる専門家に相談してみるのも安心です。