「贈与の制度が変わり、相続時精算課税制度を使うと節税になる」と思いこまれて、相談にいらっしゃる方が増えてきています。
相続時精算課税は、しくみをきちんとわかっていないと取り返しの利かなくなる実は怖い制度です。
これだけは知っておいてほしいことを見ていきます。
贈与税はかからないが相続税がかかるかもしれない制度である
相続税は人が亡くなった後に、一生で築いた財産に対して課税される税金です。
それに対し、贈与税は人が亡くなる前に財産を他に移したことに対して課税されます。
原則、年110万円までの贈与には贈与税は課税されません。
しかし条件を満たすと、それ以上の金額の贈与にも贈与税が課税されなくなります。
これが相続時精算課税制度です。
この「贈与税が課税されない」は注意が必要です。
相続時精算課税制度を使った贈与は、贈与されたときに贈与税を支払わなくても、相続がおこったときに相続財産として考えなくてはいけません。
したがって、他に相続する財産の額によっては相続税を納める必要が出てきます。
→生前に贈与されたものだけど
後戻りのできない片道切符の制度である
相続時精算課税制度は一度その制度を選択すると、一生その制度を使わなくてはいけません。
たとえば父と長女との間での贈与を相続時精算課税にした場合には、その後の両者間での贈与はすべて相続時精算課税制度による贈与になります。
一生は長いですが、その間のそれぞれの環境、お互いの関係の変化、経済や税制の変化があったとしても、原則である暦年課税には戻れません。
また一部、相続時精算課税制度を適用した財産には相続税の特例が使えない場合もあります。
選択した後にそのことに気が付いても取り消すことができません。
→贈与には2つの制度がある
一生管理をしなければいけない制度である
一度この制度を選択すると、その後毎年110万円を超える贈与は相続財産に加える必要があります。
そこに期間の制限や時効はありません。
何十年も前なので贈与されたことを忘れていたり、原則である暦年課税制度と勘違いしたりして、相続財産に入れ忘れることが増えつつあります。
相続時精算課税制度を使って贈与されたときは、手続きなどの手間もあり絶対覚えているだろうと考えます。
しかし残念ながら月日が経つとともに、手続きに手間がかかったことや、贈与を受けたありがたみなども薄れてきます。
いつ精算課税の届出書を提出したのか、贈与の額、その後の贈与を含めてきちんと管理し、贈与者の相続の時にその旨を覚えておいたり、記録しておく必要があります。
それを怠って相続税の申告のときに計上し忘れると、税務調査で指摘され、過少申告加算税や無申告加算税を払うはめになります。
そうなると、節税できたはずの金額以上に納税しなくてはいけないことになりかねません。
110万円までの贈与の相続財産への加算はない
相続時精算課税制度で代表的な節税となる部分は、毎年110万円までの贈与は生前贈与加算がないという点です。
原則である暦年課税では、相続開始前7年以内に贈与された金額は、たとえ年110万円までであっても、相続財産に加算しなくてはいけません。(※相続と贈与の時期と金額によって加算額が異なります)
相続時精算課税での贈与であれば、この7年の縛りがなく、直前の贈与でも相続財産に加算する必要がありません。
この点だけを切り取れば、毎年110万円までの贈与については、暦年課税よりはメリットがあります。
相続時精算課税制度には、たしかに「年110万円までの生前贈与加算がない」という大きなメリットがあります。
しかし、同時に「後戻りができない」「一生管理が必要」といった、将来にわたるリスクも伴うことを忘れてはいけません。
この制度が自分の状況に合っているかどうかは、贈与する金額、ご家族の状況、相続財産の総額など、さまざまな要素を総合的に判断する必要があります。
安易な決断をせず、ご自身の状況に合わせて、慎重に検討しましょう。
この制度を採用するにあたっては、専門家への依頼を強くお勧めします。
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