所得税の確定申告は、個人の1年間の所得(もうけ)を集計し、それぞれの個人に適用できる控除などを引いて、納税額を計算し、申告納税(あれば)することをいいます。
つまり、個人の経済活動を集計し、計算し、報告し、実行する作業になります。
作業ですから、AIが得意そうです。ではすべてAIにお任せできるでしょうか。
AIに確定申告について聞いてみた
まずはAIに、確定申告について聞いてみました。

必要な書類を挙げてくれました。でももっと具体的に教えてくれと言っています。


かなり絞ってくれました。これで申告できますと言っています。
確定申告指導会場では、実際にこのような質問をよく受けます。
そして「これで申告できますよ」となれば、これ以上質問はないことが多いです。
今回はもう少し聞いてみました。

これもよく受ける質問です。そしてAIの答えは間違っていません。
でも実はこの通りに申告すると、損をしてしまいます。もう少し聞いてみます。


実際、上記の方が申告した場合、これらの控除のうち「寡婦控除」が受けられる可能性があります。
税理士は、3番目の「遺族年金は申告しなくてもいいんですよね?」の質問で、この方が女性であれば寡婦控除の可能性があるかもと考えます。なので、そのことにフォーカスした質問をしていきます。
AIは、こちらが「受けられる控除は?」と聞けば可能性のあるものを挙げてはくれますが、ピンポイントで示してはくれません。
確定申告のプロセスとAIの役割
確定申告では「証憑(裏付け)に基づく数字の集計」が必要です。
集計するためには、以下2つが必要です。
・データの収集: 通帳や領収書などのデータ化が進めば、AIが直接読み取れるため、手入力の手間はなくなります。
・入力と計算: 正しいデータさえ揃えば、AIは人間よりも速く正確に処理・計算を行うことができます。
また、申告に関しても、本人確認ができれば、データで送ることができます。
データをもれなく提供できればAIの方が早く正確に申告作業ができます。
しかし、「自分は寡婦控除が受けられる条件をもっている」というデータが与えられなければ、あらゆる人に当てはまる答えを返すしかできません。
「判断」という超えられない壁
AIが全てのプロセスを完結できない理由は、「どのデータが必要か」という判断にあります。
申告に必要なすべての資産や所得のデータを漏れなく提示できるのは、現状では納税者本人(または状況を把握している税理士)だけです。
そして確定申告のしくみやきまりがわかっていなければ、何が「申告に必要である」かを判断できません。
AIは目の前にあるデータの処理は得意です。
しかし「提示されていない隠れたデータ」の存在を指摘したり、そのデータの法的妥当性を最終判断するには、指示を与える側のスキルが必要になります。
税理士も同じ
では税理士なら「提示されていない隠れたデータ」をすべて見つけられるかといえばそんなことはありません。
本人にしかわからないことはたくさんあります。
一方、納税者も、何を提示すればいいのかわからないことがあります。
ですから税理士と対話をすることで、税務に関する判断のもとになるデータを効率よく網羅的に把握することができるのです。
「遺族年金は申告しなくてもいいんですよね?」は、納税者としては何気ない質問かもしれませんが、それを情報としてすくい上げるのが税理士の役目です。
納税者は自分のデータをそろえて開示し、税理士がそれらの情報を検討してデータとしてすくい上げる、というのが納税者と税理士の良い関係につながると思います。
AIで確定申告ができる人の条件
結局のところ、AIを使いこなして申告を完結できるのは、以下のような人です。
①「何が申告に必要なデータか」を正しく理解している。
②データを正確に管理し、AIに過不足なく与えることができる。 つまり、「税務のルール」がわかっていることと、「AIへの正しい指示」の両方に通じている必要があります。
結局、AIを活用したとしても、「情報の網羅性」と「データの正しさ」を担保するのは人間の役割であり、その構図は従来の紙の申告時代から変わっていません。
AIは何でもできる魔法使いではありません。結局はそれを使う人間の知識と管理能力が問われることに変わりはありません。

