親の高齢化、家族構成の変化、財産の増加など、様々な状況で「そろそろ相続のことを考えなければ」と思う瞬間が訪れます。
そうした時、どのような順番で何を考えればいいのか、まとめてみます。
●「相続」の対策には3つある
相続の対策というと多くの方が真っ先に「相続税の節税」を思い浮かべるかもしれません。
それも重要ではありますが、実は優先順位として最初に考えるべきことは別にあります。
相続対策には次の3つの要素があり、順番に検討することが重要です。
1. 遺産分割対策
2. 納税資金対策
3. 節税対策
最初に「分割」を考えることで、円滑な遺産相続だけでなく、納税資金や節税についても自然に考えることになります。相続は「分割」の面から考えていくと、問題点が明らかになるとともに、その解決方法も検討でき、納得感も得られやすくなります。
●遺産分割を最優先に考える理由
相続人が複数いる場合、「公平な分割」が最も重要な課題となります。しかし、この「公平」という概念が相続を複雑にする要因でもあります。
単純に財産を金額で等分すれば公平かというと、そうではありません。相続人それぞれが抱える事情は異なります。
- 親の介護を長年担ってきた
- 遠方に住み、あまり親との時間を過ごせなかった
- 以前に贈与をしてもらっている
- 経済的に困窮している
- 既に十分な財産を築いている
このような状況では、単純な等分割では納得が得られない場合があります。金銭に換算できないものも「公平」に含まれ、相続の時に精算しようと考えがちになります。
そうすると、そのとき受け取る財産の額が同じであることに意味はありません。まして財産全体にかかる税金の負担を軽くすることで、相続人間の分割が不平等になってしまうのでは本末転倒です。
これまでの貢献度、現在の経済状況、将来の負担などを総合的に考慮した「実質的な公平性」が求められるのです。
●財産を残す人の意思がカギとなる
円満な分割の際のキーマンは「親」または「財産を残す人」です。
「公平」は金額だけで割り切れるものでなく感情も影響しがちですので、最終的には「財産を残す人」の意思が決定権を持つことになります。
「財産を残す人」の判断能力がしっかりしているうちに、「誰に」「何を」渡したいかという想いを具体的に残しておくと安心です。
●事前にそなえる場合は「遺言」が有効
財産の分け方には「遺言」と「遺産分割協議」があります。
遺言は財産を渡す人の意思が反映されます。一方、分割協議は残された人たちで分け方を決めます。
「そなえる」を考えるのであれば「遺言」が候補となります。
遺言を考える時、渡す財産の金銭的価値の他に、各財産の特性も考慮しましょう。
分割しやすい財産(流動性が高い)
・現預金
・上場株式
・投資信託
分割しにくい財産(流動性が低い)
・不動産
・非上場株式
不動産などは維持費もかかるため、相続後の負担も含めて分割方法を考える必要があります。
●生前贈与の活用
生前贈与も遺産分割対策の有効な手段です。ただし、これは単なる節税手段ではなく、「前もって行う遺産分割」として位置づけることが重要です。 実際の相続時には、生前に贈与された財産も含めて全体の公平性を判断することになります。
また、贈与のし過ぎで老後資金が不足しないよう、慎重な計画が必要です。
●納税資金を準備する
そもそも相続税がかかりそうかどうかの感覚はつかんでおきましょう。
納税することがわかっていれば、相続人が納税できるかどうかを考慮する必要があります。相続税の納税は金銭で、かつ一括で納めることが基本であり、また残された相続人が行います。つまり納税資金も残しておかなくては相続人が困ることになります。
●相続「税」に備える
遺産分割と納税資金の目処が立った後、初めて本格的な節税対策を検討します。ここでは、税金を「最適化」する意識で考えましょう。
節税できる相続税の特例は、内容によっては適用できる相続人とできない相続人が出てきます。
どのような節税手段があり、それにはどんな影響があるのかは相続人全員が把握し、納得したうえで活用することが重要です。
●財産も「整理整頓」が大切
なによりも残された人が、財産の整理に苦労することなく、スムーズに手続きできることが大切です。
そのためには財産を残す側が、財産の棚卸をして整理することが必要になります。
財産の棚卸しを行うことで、遺言作成時にも正確な情報を盛り込むことができ、相続人の手続き負担も軽減されます。
相続対策は「分割」「納税資金」「節税」の3つの柱をバランスよく検討することが大切です。特に遺産分割については、財産を残す方の明確な意思表示が円満相続のカギとなります。
まずは財産の整理から始めて、家族の状況に応じた最適な相続プランを検討してみてはいかがでしょうか。専門家と相談しながら進めることで、より安心できる対策を講じることができるでしょう。