相続税の対象となる財産は、亡くなった日に持っているものです。財産の金額はその時点での時価が原則となります。
ここから考えると、銀行預金は亡くなった日付の通帳残高が相続税の対象となる金額となります。
では、亡くなった日より前に銀行口座からお金を引き出しておけば、相続税の対象にならないのではないか、そう考える人も少なからずいるようです。
しかし「そうは問屋がおろさない」が結論です。
●銀行口座から引き出したお金は「手元にある現金」という相続財産
銀行から引き出したお金は現金として手元にあります。その現金も当然相続財産ですし、相続税の対象となります。
現金で保有しておけば税務署にバレないと思っている人もいるようですが、税務署は相続がおこると、その人や相続人の銀行の入出金明細や取引内容を調べることがあります。亡くなる直前にまとまった金額のお金が引き出されていれば、そのお金は今どこにあるのか疑問に思います。生活費として使い切っていれば手元にはないので計上の必要はありませんが、お財布の中にあれば財産として計上するものとなります。
国税庁から公表されている資料によれば、調査により申告漏れを指摘された相続財産のうち現金や預金の占める割合が約3割となり、土地や有価証券より多いです。「現金で保有しておけば税務署にバレない」は都市伝説の類だと思っていたほうがいいでしょう。
●亡くなる直前に現金として引き出し、手元に保管しておくメリット
一方、亡くなる直前に銀行から現金を引き出しておくメリットもあります。
亡くなったことがわかった場合、銀行はその人の口座を凍結します。口座から現金を引き出すことができなくなるのはもちろん、口座引き落としになっている公共料金、カード、サブスクも引き落としができなくなります。このため銀行の相続手続きが終わるまでの生活費や支払い用に、ある程度の現金を手元に置いておくことは有効です。
●直前に引き出した現金を、いわゆるタンス預金として所持しておくデメリット
現金を自宅で保管する、いわゆるタンス預金にはデメリットもあります。
手元にある現金を管理するのが面倒で、手間がかかります。手許現金の入出金の管理や残高の把握をしなくてはならないからです。メモでも構わないのですが、日付と金額、相手先は記録しておいたほうがいいでしょう。
またこの管理は、税務署に対してだけではなく、相続人同士で情報を共有するほうが無難です。遺産分割協議ではこの現金も分割財産の対象になるので、入出金が不明瞭だといらぬ争いを招くこともあるからです。
相続がおこる前後はなにかと現金が必要になるので、ある程度手元におく分を確保しておくことに問題はありません。しかし、「相続税対策」といってバレないように隠しておく意図での引き出しはリスクが大きく、なにも得することはありません。