今まで相続税や所得税の制度やしくみなどについて書いてきましたが、
そもそも「税金ってなに?」といったことはネットなどでもあまり書かれてはいません。
税理士の仕事の一つに、各地の学校での「租税教室」という出張授業があります。
渋谷区内の中学校では、夏休みに「税の作文」を書く宿題が出るそうなので、その前の準備として租税教室を依頼されます。
下記でその租税教室の概要をご紹介します。
税金は何に使われているか
普段意識せずそこに存在しているものにも税金は使われています。
警察・消防など私たちの安全を守ってくれるもの。
医療福祉など、私たちの健康と暮らしを支えてくれるもの。
ごみ処理費用など、私たちが快適に暮らせるサービス。
小学生や中学生は、学校で習った知識もあって、「税金は何に使われているか」の問いにはポンポンと答えてくれます。
意外と気が付かないのが、ごみ処理費用。
「これも税金でまかなわれているんだよ」というと、「あぁ、そうだった!」と急に税金が使われていることを身近に感じてくれるようです。
もしかすると、家でごみ捨てを手伝っている子が多いのかもしれませんね。
いつも使っている道路や遊んでいる公園、公民館、図書館などの公共施設にも税金が使われています。
さらに今ここにいる学校も税金で建てられています。
一説には、校舎で10億、体育館で2億、プールで1億かかるそうです(今はもっとかかっていると思いますが)。
みんなのために使われる
無人島で一人だけで暮らしているなら、税金はいりません。
校舎も体育館もプールもいりません。道路は自分が通れればいいし、ごみも適当に捨てればいい。
身を守るのも自分だけだし、病気になったら自分で何とかしなくてはいけない。
しかし現実は、私たちは社会の中で助け合いながら生きています。
その中で経済活動が生まれ、より便利で快適な生活を求めるようになります。
そこでルールができ、社会全体で使えるお金が必要になります。
これが税金です。
財務省や国税庁では、税金を「社会全体を支える会費のようなもの」と説明しています。
私はこれを「社会生活を営むためのコスト」と表現しています。
日本の国家では税金はどのように使われているかは、財務省が発表している一般会計予算をもとに説明します。

実は国の歳入のうち税金が占めるのは約3分の2くらいで、残りは国債(国の借金)を発行して補っているのがわかります。
歳出の約三分の一は社会保障関連費で、これは少子高齢化に伴い今後も増えていくと見込まれています。
そして国債を返済する必要もあります。
金利が上がれば国債の返済額だけでなく利息の支払いも増えていきます。
今の税金の使い道だけでなく、将来のことも一緒に考えてほしいと考えながら説明しています。
集め方もみんなで決める
小学校6年生では、日本国憲法は民主主義にもとづく3つの基本原理について学びます。
税金もこの枠組みの中で使われたり集められます。

この図のように、税金の使い道も集め方も国会を通して私たち国民が最終的に決めています。
その国会と私たちをつなぐものは「選挙で国会議員を選ぶこと」です。
18歳になったら選挙権を得ますが、これは税金の集め方使い方を考えるうえでもとても大切な機会なんだということを強調しています。
税の集め方は「租税法律主義」といって、法律に定められた通りに集めなければなりません。
その法律をつくるのは国会です。つまり選挙を通して私たち国民が決めていることになるのです。
この仕組みをまだうまく理解していない生徒児童も多く、「税金の集め方は誰が決めていると思う?」と聞くと、「総理大臣」といった答えがかえってくることも少なくありません。
講義の後半では、実際に自分ごととして税のことを考えてもらうために、ワークショップをします。
小学校では、お金持ちと持っていない人に立場を分けて「税のあつめ方」を話し合ってもらうワークショップを。
中学校では、3つの違う税金のあつめ方を示して、それぞれの公約を主張する候補者の誰に投票するか実際に投票してもらう模擬選挙をやってみます。
このような経験を通して、税金について自分ごととして考えてくれるようになることを期待しています。
税理士は「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命」としています(税理士法第1条より)。
納税者となる人が、自分のこととして税のことを考えられるように、また、今この場所この時だけでなく、他地域や将来のことも含めて考えられるようにお手伝いするのが、税理士にとっての一つの使命でもあるかと考えています。