戸籍はなんのために集めるのか?

相続手続きは、「誰が相続人なのか」を確定するところから始まります。
そのために、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、相続人の戸籍を早めに取得する必要があります。
この一見事務的な作業が、のちの遺産分割や相続税の計算、さらには不要なトラブルの防止にもつながっていきます。
なぜ、相続人の確定がそれほど重要なのでしょうか?

●遺産を引き継ぐ権利がある人を特定するため

相続人とは、亡くなった方の遺産を法的に引き継ぐ権利を持つ人のことです。
遺産には、不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金などマイナスの財産も含まれます。
特に借金がある場合、相続人はその返済義務も引き継ぐのが原則です。
放っておくと、債権者から請求が来たり、思わぬトラブルに発展することもあります。
そのため、相続放棄などの法的手続きを検討する場合は、相続人を早く確定し、期限内に対応する必要があります(※相続放棄の期限は原則3か月以内)。

●プラスの財産がある場合は、遺産分割協議に参加する人を特定するため

プラスの財産がある場合、誰がどの財産を引き継ぐのかを話し合う「遺産分割協議」が必要です。
この協議には相続人全員の参加が法律で求められており、1人でも欠けると協議は無効となります。
このようなことは後にトラブルの原因となります。
そのため、相続人を正確に確定することがとても重要です。
被相続人の戸籍を出生から死亡までさかのぼって調べると、前婚の子や認知した子など、予期しない相続人が見つかることもあります。
こうしたことを見落とすと、協議のやり直しや遺産分割の無効という事態にもつながりかねません。

●相続税の計算に必要

相続税の計算にも相続人が誰か、何人いるのかが必要になります。

・遺産にかかる基礎控除額
相続人の人数により、相続税の計算の基本になる遺産額が変わります。
そもそも相続税がかかる遺産額のラインに達しない可能性もあります。

・相続税の総額の計算
相続税は遺産額に単純に税率をかけて出すわけではありません。どのような遺産分割をしたかにかかわらず、一度法定相続分で遺産分割したと仮定して税額を出します。
ですからやはり相続人が誰か、何人いるのかが重要になります。

・生保・退職金の非課税枠がいくらになるか
生命保険金や死亡退職金は、一定金額までは非課税となります。その一定金額の計算に、相続人の人数が必要となります。

・債務控除などの特典が受けられる人か
相続財産から引ける債務や葬式費用は、相続人であることが条件となっています。

●戸籍の取得から相続の手続きが始まる

相続税の計算だけでなく、金融機関その他でも財産や権利を引き継ぐのに相続人であることを証明しなくてはなりません。
そのため相続開始の早い段階で以下の戸籍を取得し、相続人を確定する必要があります。

①被相続人の出生から死亡するまでの連続する戸籍
②相続人の戸籍

①については令和6年3月から戸籍の広域交付の制度ができ、本籍地以外の市区町村でも戸籍が取れるようになりました。
ただ請求できる人が決まっていたり、すべての戸籍が揃うのにそれなりの時間が必要だったりするので、利用する市区町村に確認するようにしましょう。

●家系図を作ってみたら

相続手続きのために戸籍を集めるのは亡くなった後が一般的ですが、もしも前もって戸籍を手に入れておけば、手続きがスムーズになることも考えられます。
とはいえ、生前に相続対策のためだけに戸籍をそろえるのは少し大げさに感じる方も多いでしょう。
ですが、戸籍をのぞいてみると、自分のルーツをたどる手がかりがたくさん見つかります。
かつての戸籍制度(家制度)では、一つの戸籍に親族が多く記載されており、直系の先祖だけでなく、その兄弟姉妹や配偶者、さらには遠い親戚の名前まで確認できることがあります。
戸籍を読み解いていくと、「こんな親族がいたんだ」と思わぬ発見があることもあるでしょう。

相続対策という目的ではなくても、ご自身の家系を知るきっかけとして、一度戸籍を集めて簡単な家系図を作ってみるのも楽しいかもしれません。