早いうちに相続対策をすることのメリットデメリット

相続対策を「早いうちに始めよう」とよく言われます。 では、「早いうち」とは、一体何歳のことを指すのでしょうか。
厚生労働省の簡易生命表(令和6年)によれば、50歳時点の平均余命は男性で32.57年、女性で38.24年です。 60歳では、男性23.63年、女性28.92年となっています。
つまり、50歳から始めれば35〜40年、60歳から始めても25〜30年という時間を相続対策に充てられる計算です。
相続対策は、時間が長ければ長いほど打てる手は増えます。 その意味では、50歳からスタートするのが理想的とも言えます。
しかし、50歳はまだまだ人生に変化が多い時期です。 転職、起業、再婚、子どもの進路――先行きが読みにくい要素が多く、対策が立てにくい面もあります。
今回は、60歳から対策を始めることを「早くからの対策」と定義して、そのメリットとデメリットを考えてみます。

メリット:時間が最大の武器になる

相続対策の柱は大きく3つです。①納税資金の準備、②財産の分割方法の整理、③相続税の節税——これらはいずれも、時間があるほど効果を発揮します。

納税資金の準備

たとえば、相続税の試算をしたところ納税資金が不足していたとします。しかし25〜30年という猶予があれば、毎年少額ずつ積み立てるだけで対応できる場合も少なくありません。一度に大きな負担をかけることなく、着実に準備を進められます。

分割対策にも時間的余裕が生まれる

また、相続財産が都心の賃貸不動産1棟のみで、相続人が複数いるケースも考えてみましょう。
不動産は物理的に分けられないため、相続人の間で争いが起きやすい財産です。
このような場合、「代償金」——つまり、不動産を受け取った相続人が他の相続人に金銭で補償する方法——を活用することがあります。
この代償金の準備も、長い時間があれば無理なく積み立てることができます。

節税対策も長期間にわたって実行できる

また、賃貸不動産を所有している場合、そこから得られる家賃収入を活用した贈与も有効な対策の一つです。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内であれば贈与税はかかりません。
毎年110万円ずつ相続人に贈与し続けると、10年で1,100万円、20年では2,200万円を非課税で渡せる計算になります。
早く始めるほど、この積み重ねは大きくなります。

デメリット:環境の変化で対策が「無駄」になるリスク

一方で、長期間にわたる対策には、デメリットもあります。
それは、被相続人や相続人の生活・環境の変化によって、せっかくの対策が無になってしまう可能性があることです。
相続人側の変化としては、結婚・出産・住宅の購入・病気などが考えられます。
たとえば、「子どもに自宅の土地を相続させる予定だったが、子どもが海外に移住した」というケースでは、当初の分割プランを根本から見直す必要が生じます。
被相続人(財産を渡す側)にも変化は起こります。
自身の親の相続が不調だった、病気や認知症になる、リタイアによって収入が変わる。
このような出来事は、資産構成や意向に大きく影響します。

解決策:定期的な「見直し」をセットで行う

このデメリットに対処するには、「折に触れて、対策を見直す」ことが必要です。
上記のようなライフイベントが起きたタイミング、あるいは年に一度の定期的なタイミングで、税理士などの専門家とともに対策の内容を見直す機会をもつのが理想です
相続対策は、一度立てたら終わりではありません。 家族の状況に合わせて柔軟にアップデートしていくことが、長期的な対策を成功させる鍵です。

相続対策は、早く始めるほど選択肢が広がり、一つひとつの負担も軽くなります。 60歳からスタートすれば、納税資金の準備・分割対策・節税対策のすべてにおいて、時間を有効に活用できます。
ただし、長期間の対策には「環境の変化」というリスクが伴います。 そのリスクを防ぐためには、家族に変化があるたびに専門家とともに対策を見直す習慣を持つことが大切です。
「早く始めること」と「定期的に見直すこと」。 この二つをセットで実践することが、後悔しない相続対策への近道です。

早めの一歩が、ご家族の未来を守ることにつながります。 まずは現状の財産と家族構成を整理し、専門家への相談を検討してみてください。