「103万円の壁」は主に給与所得者すなわちサラリーマンを念頭に置いて論じられています。しかし税金が発生する「壁」は、フリーランスなど個人で事業をして収入を得ている人にも関係のある話です。
「壁」の説明の中で、「税金は発生するが、増えた分に税率がかかるので手取りが以前より減るわけではない」と説明しました。この考え方は、事業で収入を得ている場合にもあてはまります。詳しく見ていきましょう。
●個人事業主は自分の利益を自分で計算しなくてはならない
給与所得者は給与所得控除としてあらかじめ経費とされる部分の金額が決まっています。また、会社が税金や社会保険料を計算して、年収から差し引いた残りの手取額をそのまま生活の糧となる金額として考えることが出来ます。これに対し個人事業主は、事業で得た収入額やその収入を得るために使った経費の額を自分で集計し、集計した収入額から経費を差し引いて所得を出す、という計算を自分でしなくてはいけません。さらにその所得にかかる税金と社会保険料も自分で計算して納税し、残った手取額が生活の糧となる収入となります。
●経費を増やして利益を少なくすれば税金は減る
「103万円の壁」でも出てきた所得税の計算過程の図ですが、個人事業主もこの流れで計算します。ただ、給与所得者と同じように103万円の収入があった場合でも、経費の額が決まっているわけではないので、必ず103万円が所得税の発生する壁になるわけではありません。経費の額が81万円なら所得は22万円となり、基礎控除額48万円内に収まるので所得税は発生しません。反対に経費の額が34万円なら所得額は69万円となり、基礎控除額を超えて所得税が発生します。
このように税金を減らすためには、必要経費を増やして所得金額を小さくすればいいわけです。だとしたら必要ないものや高価なものを買ってどんどん経費にすれば、得になるのでしょうか。
●税金は痛いけど所得は増えたほうがトク
所得税や住民税が発生する年収を「103万円の壁」と言っていますが、実際には手取金額は増えていることは前に述べました。→「103万円の壁って?扶養している家族がいる場合」
同じように上記の表を見ると、税金は払うけれど手元に残る金額はそれ以上に増えていることがわかります。
もちろん税金を払うのは痛いです。けれども商売がうまくいき収益が増加し、手取りが増えることの方が事業を行う本来のあるべき姿ではないかと思うのです。
また、税金を払わないようにするために、事業には関係のない生活費など何でもかんでも「経費」と称して所得を減らしたら…これを「脱税」といいますが、そのような所得の出ない商売を見て、なぜそんな商売を続けているのか、その商売をすることでどのように生活しているのか疑問に思われます。税務署の調査が入る動機にもなるし、事業がうまく行っていないと思われるので、銀行がお金を貸してくれなくなります。自宅を購入しようとして、所得が少なすぎるために住宅ローンが組めなくなる可能性もあります。この事業ではこのくらいの割合の経費が必要だというのはだいたい傾向があります。事業のために使った支出を必要経費としてきちんと計上し、認められた節税手段を使って賢く納税し、手取り額を増やしていく方向で事業を継続していくことを目指して欲しいと感じています。