個人事業主・賃貸経営者にとっての必要経費。その考え方と帳簿の役割

個人事業主や賃貸経営をしている方にとって、「帳簿」は確定申告のためだけのものと思われがちです。
しかし帳簿を日々きちんと記録することで、リアルタイムに事業の利益や支出を把握でき、事業を成功に導くための強力なツールとなります。
特に支出では、どの費用が必要経費として認められるのかを正しく理解できると、確定申告や税務調査時のストレスも軽減できます。

●必要経費とは

実は何が必要経費となるかは、所得税法ではざっくりとしか決められていません。
①売り上げに直接かかわる費用(売上原価)
②販売費および一般管理費その他の費用
つまり「売り上げに直接必要な費用と事業に関係する費用」と説明できるものが必要経費です。「仕事では使ってないんだよな…」と思うものは「家事上の経費」=プライベートの費用であり必要経費に入れない、と法律に定められています。

●もう少し深堀りすると…

・プライベートの費用は必要経費にはなりません。ただプライベートと業務上のものを一緒に支払うこともあるので、その場合は明らかに業務上必要な部分は必要経費になります。
自宅を事務所にしている場合などでは、家賃や水道光熱費を事務所部分に使っている面積で按分して必要経費に計上することもできます。
・家族に支払う費用は原則必要経費になりません。ただ青色事業専従者給与など経費になる場合もあります。
・事業のために借りた借入金の利息は必要経費になりますが、元本返済部分は経費にはなりません。
・所得税や住民税は必要経費になりません。ただ事業税や固定資産税(業務で使用している部分のみ)は経費になります。

所得税と住民税は必要経費を引いた後の利益に課されるものなので必要経費には入りません。
しかし手元に残る利益を考える上では必ず考慮しなくてはならないものです。

●賃貸経営上の主な必要経費

・租税公課 賃貸不動産の固定資産税
・損害保険料 賃貸建物にかけた火災保険料など
・修繕費 経年劣化による修繕など
・減価償却費 土地部分は減価償却しない
・借入金利子 賃貸不動産購入のためのローン利息(必要経費にならない部分もある)
・管理委託料 管理会社に支払ったもの

●レシートや領収書は帳簿の内容の証拠になるもの

確定申告のときはもちろん事業の利益計算においても、大切なのは帳簿の記録です。
レシートや領収書は帳簿記録が正しいことを証明するための証拠書類です。
領収書の形態が正しければ正しいほど証拠能力が高くなりますが、正しい領収書をそろえることに気を取られて帳簿記録をつけていなければ意味はないです。
同じようにレシートをため込んでしまって帳簿記録をつけていないのであれば、確定申告には間に合いますが、事業内容のチェックはできず、節税のチャンスを逃すことにもつながります。
(ただしインボイスに登録している事業者は、インボイスの要件に合致した領収書を保存していることが重要です)

●帳簿を保管しておく

法定帳簿は7年、その他の帳簿や書類は5年間保存が必要です。
法定帳簿は売上高や収入、必要経費をつけた帳簿のことをいいます。例えば仕訳帳や総勘定元帳、現金預金出納帳、売上帳、仕入帳などです。
レシートや領収書は「その他の書類」になります。

リアルタイムで帳簿をつけることにより、手元の資金の状況を常に把握することができます。これにより何に投資するのか、いつ人を雇うかなどの判断も適切なタイミングでできます。
また、金融機関からの借り入れを検討するときも、きちんとした帳簿がつけられているとその事業者の信頼性が高くなり、借入条件の改善につながる場合があります。
このように帳簿は税金計算のためだけでなく、今後の事業の成長と安定的な運営を支えるツールとなります。したがって日々の取引を正確かつタイムリーに記録することが不可欠です。

税務署の目を気にするのではなく、自分の利益になるという意識で帳簿と向き合えるようになれるのが理想的です。